資金使途はなぜ融資で重要なのか?種類・ペナルティや私の事例も紹介!

金融機関が融資する場合、重視する事項の一つに資金使途があります。金融機関から融資を受けたお金を何に使うかです。資金使途が曖昧である場合、審査に通らないので、明確にしておかなければなりません。

本記事では、資金使途について解説します。資金使途の種類や、なぜ金融機関は重要視するのか、資金使途以外に資金を使った場合どうなるのかについて、私の経験を踏まえて紹介します。

目次

融資の資金使途とは?具体的な内容について

融資を行う場合、金融機関の担当者は、融資の可否を決めるために「貸出稟議書」を作成して、上司や決裁権限者に判断を仰ぎます。

貸出稟議書の中でも、資金使途は重要事項の一つです。資金使途の種類について、ここでは解説します。

資金使途の種類

一般的に、資金使途は次の2つです。

  • 設備資金
  • 運転資金

また、設備資金、運転資金以外に、まれに企業の特殊な資金使途もあるので、紹介します。

設備資金

設備資金は、新たな設備の導入や機械の購入、事業の拡大に伴う不動産の取得など、企業の長期的な成長を目的とした資金使途です。

設備資金は基本的に高額となり、返済期間も長期に設定されることが一般的です。返済財源は、通常企業の利益および減価償却費から考えます。

運転資金

運転資金は、日常的な事業運営に必要な資金をいいます。具体例として、仕入資金や従業員の給与、光熱費、賃貸料の支払いなどがあります。

運転資金は、短期的な資金ニーズを満たすためのものであり、返済期間も短く設定されるのが一般的です。金融機関は、売上金を返済財源として考えます。

特殊な資金使途

設備資金や運転資金以外に、特殊な資金使途もあります。

例えば、M&A(企業買収)や新規事業の立ち上げに伴う資金調達など、特定の戦略的目的に基づく資金使途です。運転資金や設備資金に該当しないので、金融機関は、企業の将来性や企業が立案した事業計画が、妥当であるかどうかを鑑み審査します。

金融機関が資金使途を重視する理由

金融機関は、融資審査を行う場合、資金使途を重視します。資金使途を重視する理由として、以下の3点があります。

  • 問題なく返済できるのか
  • 企業の現状に即しているか
  • 融資することで企業が成長できるのか

問題なく返済できるのか

金融機関が融資を行う際に、最も重視するポイントの一つとして、企業が問題なく返済できるかどうかがあります。「融資の五原則」での「安全性」です

問題なく返済できるのかを判断するため、金融機関は企業の過去の財務状況を詳細に調査します。具体的には、売上高、利益、キャッシュフローの安定性が重要な指標となります。

企業の借入履歴や信用情報も考慮し、不良債権となるリスクが低いかどうかも金融機関は判断します。融資先が返済能力を有していると確認することで、金融機関自身のリスクを最小限に抑えることが可能です。

企業の現状に即しているか

資金使途が企業の現状に即しているかどうかも重要なポイントです。例えば、事業拡大のために企業が設備投資を行う場合、タイミングや必要性が企業の成長段階に適しているかどうかが問われます。

もし企業の財務状況が厳しい中で、過剰な設備投資を行うと、財政的な負担が増大し経営が不安定になるかもしれません。金融機関は、資金使途が現状の経営環境や戦略に適合しているかどうかを慎重に審査します。

融資することで企業が成長できるのか

金融機関は、企業に融資することで、企業も金融機関自身も成長することが求められています。
「融資の五原則」の「成長性」です

単に資金を提供するだけでなく、その資金が企業の競争力を強化し、持続的な成長を促進するかどうかを金融機関は審査します。

例えば、新しい製品の開発や、市場拡大のための資金が効果的に使われれば、企業の売上や利益が増加し、最終的には返済能力も向上します。

また、企業が成長することで、将来的に追加の融資が必要となるかもしれません。金融機関にとっても利益をもたらす可能性があります。

このように、融資が企業の発展につながることは、金融機関にとっても非常に大きなメリットとなります。

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資金使途違反とは?そのリスクとバレる理由

一方で、金融機関に伝えた資金使途以外のものに資金を流用した場合、資金使途違反となります。資金使途違反が明るみになった場合、企業はどのようなペナルティを課せられるのかを紹介します。

資金使途違反とは何か

資金使途違反とは、融資を受けた資金を、当初の目的とは違ったものに流用することです。資金使途違反は、金融機関との契約に反する行為であり、重大な契約違反として取り扱われることとなります。

設備資金として融資を受けた資金を、運転資金として使用することは、資金使途違反の典型的な事例です。

資金使途違反はどのように発覚するのか

資金使途違反が発覚する主な理由として、金融機関による定期的なヒアリングや、融資後の資金管理報告により発覚する場合が多いです。また、融資した企業が業績悪化し、金融機関に返済条件の見直しを依頼した場合に発覚するケースがあります。後述しますが、私の場合、返済条件の見直しで発覚したことがありました。

資金使途違反が与える影響とペナルティ

資金使途違反が発覚した場合、企業にとっては重大なペナルティが課されることがあるので注意が必要です。具体的には、融資の一括回収や、信用保証協会の保証付き融資の場合、保証の取り下げなどがあります。

資金使途違反を行うと、企業は、将来的な融資が受けられなくなる恐れがあります。信用格付けの低下や、取引先からの信用失墜も避けられません。資金使途違反は、企業が絶対に行ってはいけない行為です。

私の体験談2例

ここからは、私自身が経験した資金使途違反を2例紹介します。

商用車購入資金を運転資金に

最初の事例は、リフォーム会社の商用車購入の件です。長年取引のある先で、私自身、代表者とも親しくさせていただいてました。

代表者から「商用車を買いたいのだけど」と融資の依頼が。
「決算書類と、商用車の見積書を準備してください」と伝え、後日徴求。

信用保証協会付融資での融資のため、必要書類を信用保証協会に送付し、約1ヶ月後、信用保証書が届き融資を実行。信用保証協会付融資の場合、承認されれば、信用保証協会から「信用保証書」が届きます。保証条件等が記載されているケースもあります。

3年ほどしたある日、代表者から「業績低迷で、約定通りの返済が厳しい」と相談。条件変更(元本返済の据置)をお願いしたいと連絡があり、その旨を信用保証協会に伝えました。

信用保証協会から、資金使途が商用車購入であったため、「商用車購入の領収書を提出してください」との依頼があり、代表者に伝えました。

代表者は、「実は・・・」と、商用車購入資金を運転資金に使ったことを告白。商用車購入資金として融資した資金を、運転資金に流用していたわけです。

信用保証協会に報告すると、「きちんと管理してください」と叱責され、私は、ひたすら電話越しに頭を下げていました。しかし、信用保証協会は、元本据置の条件変更には応じてくれました。

代表者に、信用保証協会から叱られた旨を伝えると「申し訳なかった」と謝罪。
「今後気をつけてくださいね、運転資金と設備資金は別物ですので」とクギを刺しました。

その企業は、1年の元本据置後、約定通りに返済し、融資した資金は無事に完済されました。

改装資金はいずこへ・・・

2例目は、飲食業者(スナック)での改装資金です。水回りの改装資金の依頼があり、融資に取り組むものの、信用保証協会から保証否認された話です。

事業者は、個人ローンをきっかけに取引が始まり、2年ほどで延滞もなく完済しました。完済してしばらくして、「店舗の水回りを改装したいので融資をお願いしたい」と依頼があり取り組むことに。

見積書等必要書類を徴求し、信用保証協会へ保証依頼しました。信用保証協会に保証依頼すると、必ずといっていいほど、信用保証協会の担当者からヒアリングを受けます。その際、「水回りの改装資金ですね」と念押しされ、信用保証協会担当者は続けて「完了したら新たに保健所から営業許可証を徴求してくださいね」と言われました。

飲食業は、食品衛生法に基づく許可が必要なので、所轄の保健所に許可申請をしなければなりません。水回りの改装の場合、保健所に立会ってもらい、新たな許可申請が必要です。

資金使途が改装資金の場合、信用保証協会は、保健所から新たな営業許可証を提出することを条件に、信用保証書を発行することがあります。

今回の保証依頼の場合、まさにそのケースでした。条件付きの信用保証書が送られてきて、融資を実行しました。新しい営業許可証の提出が必要な旨を伝え、事業者も了承しました。

2ヶ月、3ヶ月と時間が経過するのにもかかわらず、一向に改修工事に取りかかる様子がありません。現場に行って確認するも、事業者は「もうちょっとしたら」とのらりくらりの返事。半年後、異動により私は担当から外れ、後任に注意するように引き継ぎました。

ここからは後任担当者の話です。

それまで約定通りに返済していたものの、資金繰りが厳しくなり延滞するように。後任担当者に、事業者は「融資の資金、他人に貸して返ってこないので返済できない」と、実際の資金使途は改装資金でなく、転貸資金であったことが判明しました。

信用保証協会に報告すると、「新しい営業許可証取得が条件で保証しているので、明らかな資金使途違反ですね」と。そして、信用保証協会からの保証を否認されることになりました。

つまり、融資した資金は、保証も担保もない、「丸はだか」での融資となりました。回収不能となった場合、金融機関は貸倒損失を計上しなければなりません。

しばらくして、事業者は、自己破産を申請しました。転貸資金と言ってたそうですが、それも疑問が残りました。
私自身、取組姿勢に問題があったのかなあ、と今でも思っています。

まとめ

資金使途は、特殊な事例を除き「設備資金」「運転資金」の2つです。金融機関は、資金使途を重視します。問題なく返済できるのか、企業の現状に即しているか、融資することで企業が成長できるのかが理由です。

もし、虚偽の資金使途によって融資を受けた場合、金融機関から一括返済を求められる場合があります。信用保証協会付き融資であれば、保証を取り下げられたりする恐れがあります。信用失墜につながるので絶対にやってはいけません

資金使途は、金融機関が融資に取り組む際に重要視する事項の一つです。企業は資金調達を行う場合、事業内容に整合性の取れたものであるのかを十分検討してから融資の申し込みを行うよう切にお願いします。

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この記事を書いた人

30年余の金融機関勤務経験より役立つ情報を発信しています。
金融ジャンルのSEO記事制作をメインに執筆。
趣味は楽器演奏(ホルン)にマラソン。

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