「銀行って、なんで晴れた日に傘を貸して、雨が降れば傘を貸さへんの?」
私は先日、自営をしている同級生にいわれました。私自身、初めていわれた言葉ではありません。金融機関に勤務していた頃、融資が下りなかった旨をお客様に伝えに訪問した際にもこのセリフを何度も耳にしました。
経営者の中には、雨が降った時、つまり会社の決算や業況が悪い時にこそ融機関は助けるものではないのか、と考える人もいるかもしれません。
しかしながら、金融機関は、「融資の五原則」に基づいて融資の審査を行っています。
「融資の五原則」とは、次の5つです。
- 安全性の原則
- 収益性の原則
- 成長性の原則
- 公共性の原則
- 流動性の原則
本記事では、融資の五原則について解説します。経営者は、融資の五原則を知ることで、金融機関がどのような考えで融資に取り組んでいるかが理解できます。同時に、金融機関から資金調達を検討する際の参考となりますので、ぜひ最後までお読みください。
安全性の原則
融資の五原則のうち、金融機関が最も重視する原則は「安全性の原則」です。一言でいうと、融資したお金が安全に回収できるのかについてです。安全に回収できるかどうかについて、金融機関は返済能力をチェックします。また、融資した企業が債務不履行に陥った場合を想定して、融資したお金に見合ったものを金融機関は融資先に求める場合があり、「保全」といって、主に「保証」「担保」があります。
安全性の原則とは
安全性の原則とは、融資したお金が、確実に回収できるような安全な貸出を行うことです。
金融機関は、健全性を保つには、資産を安全に運用する必要があります。融資の原資となるお金は、不特定多数の個人や法人から預かった「預金」が大半です。
金融機関は、預金者の保護や信用秩序の維持といった観点から、融資したお金は確実に回収されなければなりません。確実に回収できない融資先が多くなると、いわゆる「不良債権」が増加し、信用が失墜します。場合に行っては、金融機関の存続すら危うくなります。信用秩序が乱れ、社会や経済に混乱を招きかねません。
金融機関は、融資を行うことを予定している企業が、安全に回収できるかどうかを審査する必要があります。
資金使途や返済能力のチェック
金融機関は、融資を実行するにあたって、企業は融資したお金を何に使うのか、返済能力があるかどうかについてチェックします。そのため、経営者は、資金使途や返済の財源を金融機関に明確に説明しなければなりません。
運転資金の場合、売上債権や棚卸資産、および買掛債務を十分に把握しておくことが必要です。設備資金の場合、長期の融資となるので、返済財源である利益や減価償却費についても認識しておく必要があるでしょう。
返済できない場合に備える「保全」とは
融資したお金が無事に回収できれば問題ないのですが、金融機関は、債務不履行を想定して、場合によっては融資に取り組む前に融資先に求めるものがあります。それが「保全」です。保全には2種類あり、「保証」と「担保」があります。
保証
保証とは、貸出先が返済不能となった場合、貸出先以外の者が、貸出先に代わって貸出金を弁済する契約を金融機関と交わすことです。人的担保と呼ばれる場合もあります。
具体的な事例は、信用保証協会や法人の代表者です。ただし、条件によっては経営者を保証人として求めないこともあります。
担保
担保も、保証同様、金融機関が企業に求める場合があります。物的担保と呼ばれる場合もあり、不動産や預金、有価証券等があります。貸出先が返済不能となった場合、金融機関は担保を現金に代えて貸出金に充当し、担保権が行使できるように、不動産には「(根)抵当権」、預金や有価証券には「質権」を設定するのが一般的です。
収益性の原則
金融機関は、「預金」という形で資金調達を行い、利息を支払っています。加えて、人件費等経費もかかるため、これら資金コストを確保するためには、収益を上げなければなりません。
収益の基盤、貸出金利息
金融機関の収益源として、貸出金利息があります。貸出金利息を簡単にイメージすると、「貸出金額×貸出金利」です。貸出金利息を増やすためには、貸出残高を伸ばすか貸出金利を上げるか、またはそのどちらも行うことになります。貸出残高を伸ばすには、原資となる預金の残高を伸ばすことで可能です。
しかし、貸出金利の水準は、内外における金融市場の動向および金利政策などにより、一定の範囲内に収まるのが一般的です。固定金利で金利が決まっている商品を除き、貸出金利は通常、金融機関と貸出先の合意により決定します。
金融機関が、自社の儲けのために高い金利を貸出先に押し付けると、貸出先は他の金融機関に離れていき、金融機関は取引先を失うことになりかねません。後述する公共性や成長性といった、産業や企業を育成するといった社会的な存在意義に反することとなり、やがて金融機関自体の経営基盤を弱める結果となります。
金融機関は、収益のために金利を高く設定するのではなく、融資の効率化を図るよう努めることが必要です。
総合的な取引による収益の確保
金融機関は、総合的な取引により、収益性が確保できます。貸出のみならず、預金の推進により、貸出金利以上の金利の確保も可能です。納税や公共料金の自動振替、為替取引においても手数料収入が見込めます。収益性だけでなく、ビジネスマッチングのチャンスもあるので、目先の収益性に固執せず、長期的な視点からも安定的に収益の確保を図ることが重要です。
成長性の原則
金融機関が行う融資は、貸出先である企業が成長し、発展するものであることが必要です。同時に、金融機関自体も融資を行うことで成長につながることを成長性の原則といいます。
融資先企業の成長と金融機関の成長
金融機関は、融資取引を通して、企業が事業運営に必要不可欠な資金供給を行い、企業の成長や発展をサポートする機能を持っています。有望な企業の育成においても、金融機関は中長期的な視点から、業種の特性や将来性、取扱商品の競争力や生産・販売体制、および経営者の力量等を勘案して、融資に取り組むことが必要です。
金融機関の成長性は、企業の成長性に関わっているともいえます。企業の成長性がなければ金融機関の成長性もありえませんし、長期的な収益性も見込めません。いかに融資先の企業の成長性を維持するかが金融機関にとって重要となります。
公共性の原則
金融機関は、不特定多数の個人や法人から資金を「預金」として調達しています。調達した資金を公共的な役割を果たすべく金融機関は運用する必要があり、公共性の原則と呼ばれています。
社会の発展に役立つように資金を供給する必要こと
融資を行うにあたって金融機関は、社会や経済の発展に貢献することが求められています。2020年に蔓延した新型コロナへの対応策として実施した、いわゆる「ゼロゼロ融資」はその一例です。
また、金融機関は、低コストの資金を必要とする企業へ効率よく供給することが必要です。低コスト資金を公平に供給することが金融機関には望まれています。
健全な資金の供給
社会や経済の発展に貢献すべく、金融機関は融資を行うにあたって求められています。いい換えると、金融機関は常に社会的必要性に基づいた融資を心掛けることが必要です。
反社会的組織への融資は健全性に欠け、社会批判の対象になり、リスクも大きいため、公共性の原則だけでなく安全性の原則にも反します。
そのため金融機関は、健全な企業に融資を行うことが求められます。
流動性の原則
融資の原資の大半は、不特定多数の個人および法人の預金であることは先に述べました。
金融機関は預金者からの払戻し請求に応じなければなりません。そのため、金融機関は、資金の固定化を防ぎ、預金量に応じた貸出資産の流動性を維持する必要があります。このことを流動性の原則といいます。
貸出原資の流動性の維持
貸出資産の流動性が低下すると、金融機関の資金繰りは硬直化する傾向にあります。資金繰りが硬直化すると、スムーズな資金運用が難しいです。金融機関は、企業の財務分析を行う場合、資金の流動性についてチェックします。金融機関も貸出先同様一企業であるので、資金の流動性を維持することが重要です。健全経営の基本であることに変わりはありません。
とはいえ、流動性に重きを置いた融資を金融機関が行うと、貸出先企業の資金繰りを圧迫することとなります。長期の安定した収益性の高い融資の減少を引き起こす恐れがあります。そのため、金融機関はバランスを考えた融資構成を考えなければなりません。
まとめ~傘は雨が降る前に準備しましょう~
融資の五原則について紹介しました。銀行をはじめとする金融機関は、入社後の研修において、必ずといっていいほど教育されます。繰り返しになりますが、融資の五原則とは、以下の原則です。
- 安全性の原則
- 収益性の原則
- 成長性の原則
- 公共性の原則
- 流動性の原則
企業の業況が悪い場合、つまり雨が降っている時には、金融機関は融資に消極的となることがおわかりいただけるでしょう。いい換えると、企業は晴れた日に資金調達を行うべきです。業況悪化で資金繰りに窮することから回避できる唯一の方法ですので、頭の片隅にでも置いていただければ幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。